東京都立多摩北部医療センター小児科
小保内 俊雅
原因や機序を究明する研究が世界的に進められていますが、いまだに不明です。一方、症例情報を集積し分析した結果、様々な危険因子が確認されました。最も影響力があったのは、うつ伏せが危険因子だとされたことです。SIDS家族の会が仰向け寝キャンペーン実施を申し入れましたが、容易に受け入れられませんでした。
SIDS厚労省研究班でも、キャンペーン実施に議論が交わされました。うつ伏せ寝が突然死を誘発する機序に関する科学的根拠がないため、多くの医師は懐疑的でした。また、うつ伏せで死亡するなら、窒息だとの主張も見られました。しかし、研究班班長であった仁志田先生が、疫学の結果は無視できないとキャンペーン実施を厚労省に上申しました。その啓発推進に初代「小さな灯を守って」が貢献したのです。厚労省はこのパンフレットを、毎年11月に実施するSIDS強化月間のポスターに使用したほどです。
1996年に開始されたキャンペーンは、顕著な効果を示しました。開始前の1995年のSIDS発生率が出生1000に対し0.44であり、2004年には0.194と半数以下になりました。しかし、それ以降の発生率は極めて緩徐な低下です。キャンペーン効果が飽和したということです。
その後、不慣れな環境や受動喫煙などいくつかの危険因子が確認されました。これらを啓発することが、同じ悲劇を繰り返さないためには必要です。会の発足30周年のいま、発生率が下げ止まる現状を打開するために、「小さな灯を守って」をバージョンアップし新たな使命を伴ってリリースすることにしました。
今回はご家庭のみならず、保育園や旅先など多様な場面を想定して広範囲の適応可能性を狙いにしています。それぞれのニーズに合わせて、情報を活用されることを願っています。
睡眠中の健康な乳児が前徴も無く突然死亡する疾患です。自律神経の未熟性に伴う無呼吸からの回復遅延で発症すると推定されますが、原因は不明です。多くの症例を分析した結果、危険因子が同定され、それを回避して発生率は顕著に低下しました。これらを排除しても発症した例もあり、今後も原因究明と予防のための検証を継続する必要があります。 同じ悲しみを繰り返さないことが、私たちの願いです。
SIDSは、全身解剖や状況調査などを総合して診断しますが、根拠となる所見がありません。このため、他の原因による突然死と区別が困難です。そこで「それまでの健康状態から死が予測できなかった児に起こった突然の死亡」を包括的にSUDI※として捉える新たな考えが提唱されるようになりました。勿論、明らかな事故死や虐待などはこれに含まれません。
※SUID(=Sudden Unexpected Infant Death)と呼ぶ場合もあります。
SUDIの発生推移を見ると1996年の仰向け寝キャンペーン以降、SIDSの顕著な減少がわかります。ただ2005年以降は緩やかで、危険因子を排除しても予防できない突然死があることがうかがえます。また、診断が困難なため最近は原因不明とする例が増えています。
幼い命の突然死は多くの人々を苦しめます。少しでも防ぎたいとの思いから医療・保育・行政などの枠を超えてSUDIの原因を検証するCDRの取り組みが自治体で進められています。
当会は、小さな命の突然死を経験した遺族が、同様な悲嘆・グリーフ(Grief)に苦しむ人々の精神的サポートに当たりたいとボランティアで集まった全国組織です。CDRの遺族との橋渡しと遺族のグリーフケアで継続的に協力して参りたいと思います。
会報や小冊子の発行や研修会等を実施しています。
仰向けで寝かせてね。もし、寝返りができるようになっても1歳までは仰向けで寝ている方が安全なんだ。
慣れない場所は苦手なんだ。そばで見守ってくれていると安心して眠れるよ。
旅先や保育園登園初期など、不慣れな環境で保護者と離れての睡眠は危険です。
ふかふかな布団や大きな布団は苦手だよ。それから、僕たち私たちの周りにおもちゃなど置かないでね。
こどもにあった、適切な寝具で寝かせましょう。
僕たち私たちの周りでタバコを吸わないでね。もちろん、ママのおなかいいる時からのお願いだよ。
煙草が発達期の脳への悪影響を及ぼすため、妊婦や乳幼児周囲での喫煙は厳禁です。
できたら、ママのおっぱいがいいな。とっても安心するんだ。
母乳育児が推奨されますが、授乳を通じた母子のふれあいが重要な栄養です。
風邪をひいた時は危険だよ。特にRSウィルスが流行っているときは気をつけてね。そばで見守ってくれていると安心して眠れるよ
SIDS家族の会が発足した1993年当時、SIDSは赤ちゃんの死因のトップでした。多くの方々の努力で、その数は徐々に減り、現在では第3位です。当会の会員に占めるSIDSの割合も、半分を切っています。そこでこの度、新しいデータや事実を元に冊子(パンフレット)の改訂版を作ることにしました。
この冊子の勧めることの正反対のことをしても、ほとんどの赤ちゃんは生きています。またすべてを守っても、亡くなってしまう赤ちゃんはいます。「誰のせいでもない」と言われ、悲しみや怒りをぶつける相手がいないと感じる人もいます。
こういった理不尽を承知しつつも、私たちは新たな悲しみを少しでも減らしたいと思っています。赤ちゃんを取り巻く環境は徐々に変わり、子育てに悩みは尽きませんが、ここに書いてあることが、少しでも参考になることを祈っています。
年会費3,000円の個人会員になってください。会員には年4回、会報で育児・保育やグリーフケアに関わる様々な情報をお伝えします。会員イベントにもご参加頂けます。
このページはSIDS家族の会啓発パンフレット
「小さな灯を守って」の情報を元に構成しています。