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SIDSとは
SIDSの危険因子について
危険因子とは
SIDSは、原因がはっきりしていない病気…症候群です。いろいろな事例を研究していくうちに、病気の発症に何らかの関係があると思われる事柄がわかってきました。これらは危険因子と呼ばれています。 ただし、危険因子は直接SIDSの原因ではありません。なぜなら、これらの条件に当てはまる子どもが必ずSIDSを発症して亡くなるわけではないからです。同じような状況でも、子どもの持っている個体差などによって、違いが出てくると思われます。
たくさんの危険因子の中で、私達が赤ちゃんの育児環境に気を付けることによってSIDSを減らすことが出来るいくつかの因子があることが分かってきました。それらの因子を少なくすることでSIDSを減少させることが報告されています。
SIDSの危険因子の情報を公開する理由と注意点
危険因子を知ることは、これから子育てに係る人たちにとってはSIDSを防ぐ意味でたいへん意味のあることです。
ただし、すでにSIDSに出会ってしまったお母さん、遺族には、危険因子について知らなかったことで自分を責めたり、罪悪感を持って苦しんだりすることにもつながりかねません。SIDSは完全には予防出来ない病気です。そして、子どもの幸せな成長を願わない親はいません。SIDSで子どもを亡くしたお母さん、ご家族は、そのとき出来る限りのよいお世話をしていたのです。ですから、お母さんのせいではないのです。
どうぞ、この点を心にとめておいていただきたいと思います。
SIDSの家族への接し方
残された家族、特に母親は、自分が何かしたのではないかという罪悪感に悩まされています。
次のように説明してあげてください。
「ほとんどの赤ちゃんは、うつ伏せでも人工乳でもお母さんが煙草を吸っていてもSIDSにはなりません。逆に仰向けでも母乳でもお母さんが煙草を吸っていなくてもSIDSになることはあります。危険因子は、SIDSの直接の原因ではありません。ただ、何らかの関係があるということが知られているのです。私達もSIDSの研究者達もこれらのことは最近まで知らなかったのです。ですから、SIDSはお母さんの責任ではないのです」
参考)
吉永宗義、福井ステファニー 「乳幼児突然死症候群(SIDS)発症の背景としての育児環境に関するアンケート調査」
厚生省心身障害研究 「小児の心身障害予防、治療システムに関する研究」平成6年度研究報告書 p226-229
SIDSの危険因子についての最近の情報
危険因子とは? 原因論ではなく、予防に生かすための医学的情報のことです
過去10年間に、多数の国でSIDS防止に向けたキャンペーンが実施されてきました。 2008年SIDS国際会議で発表されたデータには、こうしたキャンペーンのお陰でSIDS の危険要因に変化が起こったことが示されていました。2006年度のCESDIとSWISSによる調査から、最近では、SIDSは貧困地域、また黒人、多様な少数民族や移住民族に発生率が高いことが判明しています。多様な民族集団に向けてキャンペーンなどを広げることは非常に困難です。ドメスティック・バイオレンス、薬物やアルコール依存症、子どもの虐待、貧困やホームレスなど要因が複合的であるため、ソーシャルワーカーによる徹底した心理社会的評価を実施する必要があります。
10年間に渡るSIDSのキャンペーンにより、危険因子の現れ方に変化が起こました。現在、SIDSによる死亡は、週末と冬の期間にソファーで発生する可能性がより高いです。うつ伏せ寝や横向きに寝かせる率が減少しました。また、おしゃぶりの使用頻度が減り、母乳育児が増えました(ただし、この変化の程度は統計的には重大な意味をもちません。)。以前よりも、赤ちゃんを同じ部屋にしたり、同じベッドに寝かせる割合が増えました。調査によると、顔を覆ったり(大きくなると幼児は自分で顔を覆います)、枕を置いたりする行為は、SIDSの危険因子の中でも改善可能な主要項目になっています。同様に、妊娠時の尿路感染症も改善可能な危険因子です。
ピーター・フレミング(Peter Fleming)博士は危険因子を「異論なし」と「異論あり」の2つに分類しています。以下の危険因子に関する研究は多数なされており、重要だという事で全員認識が一致しています。それらは、うつ伏せ寝、喫煙、枕、カバーをかけ過ぎる、顔を覆う、赤ん坊と別の部屋で寝る 、(特に親がアルコールを飲んだ状態で)ソファーで一緒に寝ることです。
「異論あり」の危険因子としては、添い寝・母乳以外での育児です。予防について異論ありとした行為としては、赤ん坊を産着でくるむ、寝袋を使用する、おしゃぶり、フィート・トゥ・フット(毛布が顔にかからないように端をベットのしたにはさむ)が含まれます。
喫煙
近年の研究から、喫煙は危険要因で4倍も危険度を高めることが知られています。これは、家庭内の喫煙者なら誰にでも当てはまります。10年間のSIDSキャンペーンにより、家庭内で喫煙にさらされるリスクは減少しましたが、今なお大きな危険因子となっていることが知られています。
喫煙がなくなると、SIDSを49.3% 削減できると見込まれています。
スコットランドでは喫煙する母親は全員、禁煙サポートサービスに紹介されます。それでもわずか5%しか禁煙できていません。そのため全面禁煙ではなく、喫煙量を軽減させる別のアプローチが実施されています。
喫煙には、摂取量により応答効果の違いが認められるため、こうした対策がSIDS削減 には有効です。
ベッドの共有
赤ん坊とのベッドの共有を禁じる過激な広告がオランダで展開しているとの発表がありました。
しかしながら、赤ん坊と一緒に寝ることがSIDS の危険要因であるかは未だ議論を残すところです。
ある研究では、赤ん坊と添い寝をする事は、統計上重要な危険因子になっていることが知られています。しかし、このデータからソファーでの死亡の事例を差し引くと、親のベッドに赤ちゃんを寝かせることは統計的に危険要因にはなり得ませんでした。
現在では、世話をする人と赤ちゃんが一緒にソファーやひじ掛け椅子で寝る場合の方が、添い寝でのSIDSの発生の高い比率を占めています。これは、SIDS防止キャンペーンでベッドを共有しないように言われたので、ベッドの代わりにソファーに移って寝るようになったという人もいます!
ノルウェー人の親の50%が赤ん坊と一緒に寝るため、ノルウェーの関係団体は、一緒に寝ないでと呼びかける代わりに、安全に一緒に寝る方法を明確にした簡単なパンフレットを作成しています。そこでは「赤ちゃんは赤ちゃん用のベッドに寝かせますが、一定条件を満たしていれば、親と一緒に寝ても大丈夫です(例えば、両親の間に寝かせない、お酒を飲んでそばに寝かせないなど)」と説明されています。
スワドリングの使用
Swaddling(スワドリング)は日本ではおくるみと呼ばれている、乳児を寝かせる時に用いられる寝具の一つです。18世紀ごろから世界中で広く受け入れられている方法です。
胎児期に赤ちゃんは子宮壁に包まれています。しかし、出生後はそのように覆い包むものがなくなり、全く新たな環境で生活を開始します。
挿絵の様におくるみで覆うことで胎児期の環境に近くなり、安心し落ち着いて眠ることができると考えられています。しかし、かなりタイトにくるむことが必要です。
これによってSIDSの危険はないのかといった心配があります。
ヨーロッパでの調査1では、Swaddlingをされている児に突然死の発症が抑制されているとの報告があります。それは、Swaddling児は基本的に仰向けで寝かせられます。2
さらに、Swaddlingにより児の寝返が抑制されるためと考えられています。しかし、Swaddling中に突然死で見つかった症例がいないわけではありません。突然死をした22症例の報告3では、15名がうつ伏せで発見されています。このうち1名を除いて当初は仰臥位で寝かされていました。
Swaddlingは寝返りを抑制すると思われていても、寝返りをしてしまうことがあります。寝返った場合上肢がきつくおおわれてしまうため、首を回転させて窒息防御姿勢をとることが抑制されてしまうと考えられます。従ってむしろ危険が増してしまうでしょう。
また、1名は布が顔と首の周りを覆ってしまったことによる窒息と診断されています。正しい方法で実施することが肝心です。
他の1名は非常に体温が高い状態で発見されました。温めすぎが突然死の誘因になったと考えられています。
Swaddlingに用いる布の材質を慎重に選ぶことも安全性を維持するためには必要なことです。
また、2名は柔らかいベッドに寝かされており、これに伴った窒息と診断されています。
これらの報告を見ると、Swaddlingはすべてにおいて安全というわけではありません。
大事なことは
- うつぶせ寝は避ける
- 同じ部屋で寝るが添い寝はしない
- 柔らかい寝台には寝かさない
- 児の体格に適切な掛物を使用する
- 温めすぎにならないようにする
など、安全な育児環境で子供を育てることです。 またSwaddlingに慣れていない児は使用当初に危険が伴うことを認識してください。Swaddlingを日常的に使用されている児と、そうでない児がSwaddlingを使用された場合の生理学的変化に関する調査 4があります。
それによりますと、普段Swaddlingを使用されていない児がSwaddlingをされると就寝時間が長くなる一方で覚醒反射が減弱するとの結果があります。これは、乳児は新しい環境に適応することが苦手であり、環境変化は突然死の危険因子であることを示唆しています。
Swaddlingを新たに始めようとするときは、十分に観察ができる状態で始めることが肝心です。特に保育施設などでは配慮が必要です。
安全と言われても、全てに安全はありません。推奨された育児環境を順守し細やかな愛情をもって注意深く児を見守ることが必要です。
SIDS家族の会メディカルアドバイザー
公益財団法人東京都保健医療公社
多摩北部医療センター 小児科
小保内 俊雅
- L'Hoir MP, Engelberts AC, van Well GTJ, McClelland S, Westers P, Dandachli T, et al. Risk and preventive factors for cot death in The Netherlands, a low-incidence country. Eur J Pediatr. 1998;157:681–8
- Oden RP, Powell C, Sims A, Weisman J, Joyner BL, Moon RY Swaddling will it get babies their backs for sleep? Clin Pediatr 2012;51: 254-259
- Emily McDonnell, Rachel Y. Moon, Infant Deaths and Injuries Associated with Wearable Blankets, Swaddle Wraps, and Swaddling J Pediatr. 2014; 164(5): 1152–1156.
- Richardson HL1, Walker AM, Horne RS. Influence of swaddling experience on spontaneous arousal patterns and autonomic control in sleeping infants. J Pediatr. 2010; 157: 85-91.
SIDSと死産
子宮内(胎児の環境)のストレスはSIDSと死産の両方の指標項目になります。両者に共通の危険因子は次の通りです。
- 妊娠中のαフェトプロテインの母体血清レベルの増加
- 子宮内胎児発育遅延
- 妊婦の喫煙
- 社会経済的貧困
これら危険因子のいくつかは逆方向に働きます。
例えば、妊婦の年齢では、高齢であれば死産の危険因子であり、若年であればSIDSの危険因子です。
また、未経産は死産の、多経産はSIDSの危険因子とされ、妊娠期間に関しては、早産がSIDSの、過期産が死産の危険因子とされています。
参考)
SIDS家族の会 会報第59号 第10回SIDS国際会議報告『ポーツマスin 英国』その2
2008年6月ポーツマス(イギリス)で開催されたSIDS国際会議に参加して 福井ステファニー より抜粋