特定非営利活動法人 NPO法人 SIDS家族の会

SIDS家族の会は、SIDSやその他の病気、または死産や流産で赤ちゃんを亡くした両親を精神的な面から援助するためのボランティアグループです。
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流産・死産とは

死産を少なくするために

死産を減らすためのキャンペーン: 今、それを行う時か?

福井ステファニー 

日本の妊娠満22週以降の死産率は年々減少傾向ではありますが、出生1000に対し3.5例、毎年約4000の家族が死産によって尊い命を失っています※1。死産を経験した両親の喪失感は、SIDSで子供を失った両親のそれと酷似しています。それは、両者とも全く予期せぬ出来事で、それまでの希望や幸せが突然断ち切られること。そして、多くが原因不明だからです。このため次の妊娠に対する不安感も強く、このトラウマが原因で夫婦関係が崩壊することも珍しくはありません。

胎児は子宮内にいるため、その状態を正確に把握するのは容易ではありません。これが死産の予測や予防を困難にしています。胎児の状態を見るには超音波や胎児心拍モニターなどがありますが、いずれも専門医療機関等でなければ実施できません。近年、胎動が胎児の状態を反映するとの知見が示され、胎動カウントが考案されました。これは妊婦が自宅で容易に実践できますが、日本ではいまだに普及していません。その理由は、疫学的には有効性が示されていますが、そのメカニズムは科学的に証明されていないからです。これはうつぶせに寝かさない事がSIDSの予防につながるとした、SIDS予防キャンペーンの時と同様の状況です。

メカニズムは明らかではありませんが、予期せぬ突然の子供の死亡による悲しみを予防することが出来るなら、胎動カウントを全国に普及する運動を展開する意義があるのではないかと考え、これをSIDS家族の会の事業とすることを提案します。

1.胎動カウント
胎動カウント

胎動カウントには様々な方法があります。一例としては、胎動10回カウント法があります。これは、お母さんが1日1回静かに横になるか座るかした状態で、胎児がはっきりと10回動くのに何分かかるか(目安としては30分以内)を測定する、というものです。グラフに測定値を記入し、次回妊婦健診時に担当医に見てもらいます。

2.なぜ胎児の動きを数えるのでしょうか?

胎動の減少は死産と関連性があるとされています※2。研究者の間ではこの見解で一致しており、最近の研究でも再確認されています。そのため、お母さんが胎動カウント表を使って胎児の動きを記録することは大事であり、場合によっては胎児の命を助けることが出来る可能性があります(わが国では死産とは妊娠12週以後の死産と定義されているが、ここでは妊娠22週以後の後期死産を示すこととする。以下同様)。

3.胎動カウントによって死産率を減少させることができますか?

胎動カウントと死産率についてはこれまで様々な観点から多くの研究がなされてきましたが、結論はまちまちです。その時々の研究成績に応じて「胎動カウント」は支持されたり、反対されたり、また支持されたりということを繰り返しています。

これまでの研究結果にばらつきが大き過ぎるため Cochrane Collaborationでは2008年までの英語論文での研究結果をレビューし、胎動カウントが実際に死産を減らせるのかどうか検討しました。研究は13あったのですが、このうち、9つの研究については科学的には必ずしも正確ではないため除外され、残り4つの研究については科学的に正確だと判断され、この4つが検討対象になりました。

これら4つの研究結果からCochraneレビューが導いた結論は以下です。「胎動カウントを推奨すべきか、または推奨すべきでないのか、どちらの結論にも充分なエビデンスが認められない。」しかし、「これらの研究から胎動カウントが有益な効果を生むかもしれないという間接的なエビデンスが出たため、この分野の更なる研究が必要である。」と報告されています※3。その間接的なエビデンスとは、胎動カウントが実施された母集団では死産率が減少するということです。

Cochraneレビュー以来、胎動カウントのキャンペーンを有益とするエビデンスが統計に支えられて発表されています。ノルウェーでは、研究者たちが教育活動の一環として、妊娠17~19週のお母さん全員には胎動減少について書かれたもの(と実際の胎動カウント表)、ヘルスケアの専門職の人たちにも胎動減少を訴えるお母さんたちのケアのためのガイドラインを配布しました。65,000の妊娠のケースと4,200の胎動減少の報告を追跡調査した結果、この教育活動の期間中、死産発生率は単胎妊娠全体で三分の一減少し、さらに胎動減少を訴えたお母さん群では死産の発生が通常の半分になりました。

また、その期間中は、胎動減少を訴えていたお母さん群では早産、胎児発育遅滞、新生児ケアユニットへの入院、重度の新生児呼吸抑制などの増加は見られませんでした。超音波検査の回数は増えましたが、その後の再来院や薬での誘発出産の数は減りました。そして、全体として胎動減少を訴えるお母さんの数は増えなかったので、心配されるような不必要な医療も増えなかったわけです※4

4.数多くの問いにまだ答えが出ていません

胎動カウントは研究者の間でも未だに多くの議論を呼ぶトピックです。胎動減少と死産の関連性が認められたからといって、即、胎動カウント表使用が死産率を低下させたとストレートに解釈することはできません。本当に胎動カウントが死産率の減少に寄与しているのか、あるいは他の要因が寄与しているのかは分かっていません。

また、胎動カウントが死産率を減少させているとしても、胎動数を数えることでなぜ命が救われるのか、その理由がはっきりしません。例えばある比較研究によると、胎動カウントをしたお母さん群では、胎動減少時に指示通り医師の診断を受けたため、より多くの胎児が生存した状態で診断を受けることが出来ましたが、ただバックアップテストで偽陰性(児が健康だとの間違った結果)とされたため救命することが出来ませんでした※5。ノルウェーの研究では、胎動カウント群は胎動減少時に来院するよう指示されていたため、トータルの受診回数が増え、超音波テストの数も増えたと報告されています。医療経済的にデメリットがあるとの認識です。ところが、新生児病棟に搬送される胎児の数は増えませんでした ※4。これらの研究からは、胎動カウント表を使った時に死産率が減少したことは確かですが、胎児がなぜ助かったかは分かりません。

これは、うつ伏せ寝とSIDS(乳幼児突然死症候群)発生との関係を立証する際に遭遇した事態・困難性に非常に似通っています。関連性を示す疫学的証拠は間違いなく存在するのに、それを立証するだけの科学的証拠がなかったため、SIDS予防キャンペーンの実施が大変困難だったという歴史があります(いまだにこれは科学的に立証されていません。ただし、疫学もれっきとした科学ですから立証されたと言っても良いのですが、病理学や生理学ではいまだに不明です)。

例えば、胎動カウント表を配布している日本のある病院(竹村秀雄医師が理事長を勤める小阪産病院)の、過去12年間のデータでは死産率が全国平均よりかなり下回っていることを示しています※6。この低い死産率は胎動カウントに起因するものかもしれませんが、これも確証にはなりません(註、このグラフでは後期死産を含む周産期死亡率を示している)

周産期死亡率/クリックで新たなブラウザを開きます

アメリカの遺族グループであるFirst Candleは、グループ内外の専門家による徹底したレビューを実施しました。First Candleは、疫学的エビデンスあり、との結論に達し、2008年には、パンフレットやPublic Service Announcement(公共広告のようなもの:Heinz基金が資金提供)を用いて、複数の都市において、死産防止キャンペーンを開始しました。パンフレットには胎動カウントについての解説と、お母さんたちが使う胎動カウント表が掲載されています。 http://www.firstcandle.org/kickscount/index.html

5.胎動カウント表の使用の賛否両論

以下、使用の賛否両論について詳しく見ていきましょう。

反対:いくつかの研究結果では、胎動を毎日カウントする必要はないことが示唆されています。お母さんの定期健診時に「胎児の動きについて問診する」など、医師が「用心深くなる」だけで十分だ、との考えもあります。

賛成:死産率減少のためのキャンペーンに胎動カウント表は不可欠でないとしても、胎動カウント表とその説明パンフレットは、お母さんたちに死産と胎動の関連性への理解を深めるための良い教育手段である可能性があります。また、医療従事者も「胎児の動きについて問診する」本当の意味を理解していない可能性があり、問診が実施されなかったり、重要視されなかったりする可能性もあります。この医療従事者側の無知や誤解をパンフレットが一掃する可能性があります。


反対:こういったキャンペーンでは言葉の使い方に十分に気をつける必要があります。というのは、例えば赤ちゃんを仰向けに寝かせるだけでは、SIDSがすべて予防できるわけではない、それと同様に、胎動カウントするだけですべての死産を防止できるわけではない。具体的には、お母さんが胎動減少に早く気づいて、病院にすぐに駆けつけたとしても、胎児の死を防ぐことができない事態も多いわけです。例えば遺伝的要因による死亡や臍帯要因による死亡は胎動カウントでは予防できない可能性が高いです。

賛成:言葉の使い方に十分気をつければ、誤った主張にはならないキャンペーンができるはずです。


反対:「どれだけ胎動が減少すれば胎児が危険な状態なのか」、すなわち「アラームシグナル」の閾値は未だ明確に定められていません。今までの研究結果より、一般的には、胎動カウントが「2時間に10回」が正常回数の下限値(閾値)として使用されてきました。しかし、日本を含む複数の調査では、10回胎動カウント平均値は、それよりもずっと短い10-15分程度であると報告がでてきています7。 つまり、アラームシグナルや基準値(平均値)はまだ分かっておらず、胎動回数には、胎児の個体差によって大きな違いがあるかもしれないのです。また、胎動カウントの最良の方法も確立されていません。

賛成:胎動の顕著な減少は重大な症状であることが分かっています。胎動カウント表を使うと、たとえ定められたアラームシグナルやカウント方法がなくても、胎動の顕著な減少を知る事が出来ます。胎動カウントについて書かれた冊子などが教えてくれている事は、胎動カウント表はお母さんたちに「自分の胎児の場合は何が正常」なのかを示してくれるツールだということです。全員の胎児の胎動の閾値を正確に示す必要はないでしょう(というより、各々の固体の違いにより、厳格な閾値を定めるのは不可能でしょう)。


反対:いくつかの調査では、胎動の減少に気づいたお母さんの通院回数が増え、不必要な高額医療検査を受ける場合が多々あることが報告されています。

賛成:はい、しかし胎動カウント自体は胎児モニターの簡単安価な方法です。おおがかりな装置や検査は不要です!胎動の減少に気づく機会が増えれば、通院回数も増えるとおもわれるかもしれませんが、上記ノルウェーのケースではそうなりませんでした。胎動カウント表が配られても胎動減少を訴えるお母さんの数は増えませんでした。しかし、死産発生率が減ったのです※4。今後の課題は、どの検査が胎児の健康問題を診断するのに効果的であるかを見出すことです。上記の胎動減少を訴えた妊婦の研究では、超音波検査の率が増えました。検査の主流は超音波検査へとシフトして、検査結果に基づく注意深い妊娠への対処が違いをもたらしたようです。今までは、胎児に異常があるにもかかわらず、様々な検査では正常と判断されてしまい、充分な処置がうけられずに、胎児を救うことができない事例がありました ※8。高リスク妊娠を上手く抽出し、管理していく方法を見出すことが不可欠です。スウェーデンの研究からは、胎児発育遅滞などを早期に発見することが重要であるといえます。胎児発育遅滞は早期に発見されないと、その後症状が悪化し悪い結果となります※9

6.上記以外の胎動カウント表のメリット (副効用)

胎動カウント表使用に関するその他の賛成意見とメリットについて。

  • 胎動をカウントさせても、お母さんに余分な不安感を与えることはないことがこれまでの調査で確認されています※10。実際、どの研究からも胎動カウントが「有害」であることを示す証拠は認められていません。
  • 医師にとっては一人の妊婦を毎月1~4回程度、しかも数分間しか健診しえないため、胎児に関する十分な情報が得られないと感じることがしばしばあります。胎動カウント表は胎児に関するより詳細な情報を提供することができます。また、胎児の健康管理にお母さんがより責任感を持って関わるようになります。更に、毎月お母さんが胎動カウント表を持ってきて、胎児の情報を医師に伝えることで、医師や医療スタッフとの関係をより密接なものとし円滑なコミュニケーションを図ることができます ※11。胎動表が医師・患者関係の緊密化の手助けとなる可能性もあります。
  • 胎動カウント表を使うと、1日30分間静かに横になり、赤ちゃんに注意を払うことになるので、お母さんは自身の体だけでなく胎児の状態について関心を持つようになります。母子の心理的絆を深めることも期待されます。
  • 妊婦が胎動をカウントすることで、将来の研究を方向付ける重要なデータを提供することができる可能性があります。

Acknowledgments

竹村秀雄先生、松原茂樹先生、そして小保内俊雅先生、本胎動カウントキャンペーン提案書執筆へのご協力、ありがとうございました。

References

  1. Maternal and Child Health Statistics of Japan, Mother’s and Children’s Health and Welfare Association, 2009
  2. Froen JF: Management of Decreased Fetal Movements, Elsevier Seminars in Perinatology 32:307-311, 2008
  3. Mangesi L, Hofmeyr GJ: Fetal movement counting for assessment of fetal wellbeing. Cochrane Database Syst. Rev. The Cochrane Library 2008(1) http://www.thecochranelibrary.com
  4. Tviet JVH, et al.: Reduction of late stillbirth with the introduction of fetal movement information and guidelines-a clinical quality improvement. BMC Pregnancy and Childbirth, 9:32, 2009 http://www.biomedcentral.com/1471-2393/9/32
  5. Grant A, et al: Routine formal fetal movement counting and risks of antepartum late deaths in normally formed singletons. Lancet 2:345-347, 1989
  6. Takemura H: シンポジウム講演記録、予期し得なかった死産症例について~症例偏、温和会会報(88号)2007
  7. Kuwata T, et al: Establishing a reference value for the frequency of fetal movements using modified 'count to 10' method. J.Obstet.Gynaecol.Res. Vol 34, 3:318-323, 2008
  8. Froen JF: Fetal Movement Assesment. Elsevier Seminars in Perinatology 32:243-246, 2008
  9. Lindqvist PG, etal: Does antenatal identification of small-for-gestational age fetuses significantly improve their outcome? Ultrasound Obstet Gynecol 25:258-264, 2005
  10. Liston RM, et al: The psychological effects of counting fetal movements. Birth 21-135,1994
  11. Takemura H: 胎動カウント-胎動は赤ちゃんからのシグナルです! The Japanese Journal of Perinatal Care, 185:86-88, 1996

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